薔薇と片隅の


からからと揺らすグラスは一体何杯目だったか。 それほど酒は強いほうでもないのに既に記憶にない。 ときおり開く扉の音に過剰反応して振り向いては落胆する俺を、 趣味の悪い時計のピエロがニヤニヤ笑った気がした。 馬鹿みたいだ。馬鹿みたい。馬鹿みたいに好きなのに。 あいつはいくら待っても来やしない。 なぁ、俺をこんな風にしたのはお前だろう。 このバーで、この店で、最初に俺を誘ったのもお前じゃないか。 なのに最後に見たのは誰か女と一緒に歩いてる姿だった。 なぁ、そのポニーテールの女は誰なんだよ。 お前は、お前は。 グラスを見ると既に氷は殆ど解けてしまっていた。 俺もこの気持ちも氷のように解けてしまえばいい。 そうすればもう何も感じなくてすむのに。 店内に薄くかかる曲は、あいつが好きだと言っていた曲だ。 やめろよ。 今更なんだよ。 余計に寂しくなるだろうが。 マスターを見るとよほど俺の目が据わっていたのかびびって曲を変えた。 は、馬鹿馬鹿しい。 なぁ、誰か、誰か、誰か、誰でもいいから迎えに来い。 なぁ、誰でもいいから。 誰でもいいなんて言ってみても、思い浮かぶのはあいつの顔しかない。 どうせ今日も俺は、 終 ポニーテールのあの子はさっちゃんです。今日も場末のバーでひとりきり(笑)