薄い屋根を雨がたたく音がする。俺は雨が嫌いだ。なんてったって湿気のせいで
天パのやろうが調子付いて何時も以上にくるくるくるくる絡まってこっからお前パ
ンチパーマになるんじゃねってくらい主の俺に逆らうものだから。土方もあまり雨
は好きではないようでその理由というのが湿気のせいで煙草がまずくなるからなの
だという。彼は彼で切実なのだろうが俺としてはそれで本数を減らすわけでもなし
俺の事情とは違うと思うし多分どちらかと言えば嫌いといった程度なんじゃないだ
ろうか。まあ俺だって天パが俺に逆らおうが命に別状はないわけだけど。土方はさ
っきからずっと窓のさんのところに足を預けて外を眺めている。無表情で何を考え
てるかわからない。何時もはいらいらと四六時中煙草をくゆらせている彼は窓に陣
取ってから数時間が経つのに飽きもせず雨を眺めている。その間俺はというと洗い
物をしたり茶を入れてみたりいっぱいになった灰皿を片付けてみたりと何時もより
も格段に働いているというのに土方は突っ込み一つよこさない。ひと段落つけてか
らソファでくつろいで土方の横顔を眺める。ひどく透明な目をしていると思った。
他の奴がやったら気障に見えるだろうに彼がそこに居ると一枚の絵のように様にな
っている。きっと土方が見ているのは雨でも外の風景でもなく過去の記憶や夢なの
だろうもしくは、思考を放棄して雨の音を聞いているのかもしれない。そんな透明
な土方なのに俺の目はゆるく開けられた着物のあわせからのぞく鎖骨から離れない。
きっと俺は彼よりも俗物的なんだろう。くつろいでいるのを邪魔したくはないがそ
れよりも俺の欲求を満たしたい。話したいだとか触りたいだとか気持ちいいことし
たいだとかいろいろ。最終的にノってきてはくれるが俺ばっかりそういう欲求を持
っていて俺ばっかり満足して俺ばっかり好きなんじゃないか。そんな不安を抱かせ
るほど土方はひどく、淡白だと思う。それが彼なのだと言ってしまえばそれで終わ
ってしまうのだけど。ふ、と細く息をつくささやかな音が聞こえたような気がした。
さっきまで彫像か何かのように動かなかった土方が身じろぎしてこっちを向く、そ
して、何かをねだるように大きく腕を開いた。それを見た瞬間何かを考えるより先
にまず体が動いていた。気づいたときには土方が腕の中にいて暖かな体温が布越し
に伝わってくる。振動が伝わってきて痛かったのかと思って力を緩めて顔を見ると
土方は笑っていた。
「お前、今すげー早かった」
「だって、お前気が変わるの早いからさ」
そーかよと言ってゆるく添えられた両腕に力が込められる。ああちゃんと求めら
れていたんだ、一歩通行じゃなかったんだ。安堵といっしょに好きだ、という気持
ちが一気に大きくなってあふれ出した。すきだ、すき、なんだ。声に出ていたらし
くまたお前は、といってあきれた風でも笑って抱きしめ返してくれる。俺が力を込
めすぎたせいで息が苦しそうだけどそれでも好きにさせてくれる。こんなことしか
できないけど俺の好きが何分の一かでもこいつに伝わればいい。目がくらむほどの
愛しさに思わず目を閉じた。