さっきからとうに空になってしまったプリンのカップと格闘している男は俺のことが好
きだという。道端で会えば好きだと言って飲み屋で会えば好きだと言ってたまに遊びに来
れば好きだと言う。そのくせその後すぐに照れたように逃げ帰ってしまうから俺はどうし
ようもなくいたたまれない気持ちでその場を去るしかない。ガキみたいに自分の気持ちぶ
つけるだけぶつけて俺は放置プレイだ。闇雲に好きっつって酒呑んでたまに遊んでりゃそ
れで満足。あほか。ふざけんな。わかってんのこいつ、俺だって休みだと言われたってこ
こか飲み屋くらいしか行き場が思いつかねぇんだよ。嫌だったら来やしねぇのにそれに気
づかないこいつはいつだって空回りだ。見てて面白いから別にいいんだけど。清純ぶって
今更だっつの。新聞越しにちらりといっこうに落ち着きのない天パをみて重い重い溜息を
つく。それで結局ほだされてる俺も俺だけど。
「好きなんだよ」
「へぇ」
とは言ったものの現在俺の興味は新聞の社会欄と煙草の残りの本数に向いている。仕事
中毒と言いたきゃ言え。ただうだうだ好きだ好きだと繰り返す男を見ていたって楽しいこ
となんざ何にもありゃしない。くだらない番宣の番宣してる昼間のテレビを見るよりはこ
っちのほうが数倍ましだ。ひょいと手が伸びてきて俺の読んでる新聞をぐしゃりと潰す。
「おい!」
「だってすきなんだもん」
「あーはいはい」
どうでもいいけど手をどけてくれませんかね新聞読めねんだけど。フィルター近くまで
短くなった煙草を灰皿に押し付けて新しい1本に火をつける。残りの煙草は7本だった。
こっち来る前に買っておいてよかった。
「すきなんだよー」
「うるっせんだよ!」
「ごめん、うざかった?」
「そこまで言ってねぇ」
銀時はすっかりしょげてうなだれている。かまってくれオーラ丸出しだ。いい加減かわ
いそうになった俺はこいつに決定打を打ち込んでやることにした。いつだって待ってるだ
けじゃかわんねぇし元来俺はそんな性格じゃない。結局、俺だって臆病だったって話だ。
結果なんて初めから目の前にあったのにな。
銀時の髪を引っ張って無理やり俺のほうに引っ張る。どさりと音がしてソファの上で仰
向けになる形になっている。思い切り引っ張ってやったから文句は言わないまでも当然な
がら怒っている。それくらいでちょうどいい。それがいつものお前の反応だ。
「好きっつってりゃいいもんじゃねぇんだよ、俺は」
「は?」
「だから、闇雲に言ってるだけじゃだめだっつってんだよ」
「は?え?」
「俺が好きなら好きっつってキスの一つ位してみろよ、銀時」
小学生かお前は。にやりと笑って言ってやると銀時はハトが豆鉄砲食らったような顔を
したあと真っ赤になって、お前、それ反則と呟いた。不安定な体勢でソファに乗っていた
ものだから動揺してきょどった途端、落ちた。その後高速で起き上がってキスしたもんだ
から雰囲気も何もあったもんじゃない。が、まあとりあえずは満足してやることにした。