初めて触れた彼の体はひどく冷たかった。その手も足も髪も唇さえもいっそ生き
てるのか疑わしいほど冷え切っている。光熱費を抑えるために暖房を一切切ってい
るこの部屋ではしかたないのかもしれない。肌をいくら辿ってみても温まる気配は
ない。汗がにじんではいるがそれが外気で冷えてさらに彼を冷やすのだろう。薄暗
い中でも分かるその白い肌からは甘い体臭などではなくさっきまで吸っていた煙草
のにおいが染み付いていた。それが単純に面白くなくて首筋に舌を這わせると土方
はぴくりと反応した。だがそれだけだ。
俺の下で土方はずっとすすり泣くような声を出している。もしかしたら本当に泣
いているかもしれないと思ったがそれを確かめる勇気は既になかった。押し倒した
とき土方はやたら暴れてお互いに、本来の目的とは違ったところで身体精神ともに
疲弊していた。性欲とは別の方向に思考が動く。それでは何故こんな状況を続けて
いるか自問するが答えはいっこうに見つからない。ただ何となくもう引き下がれな
いところまで来てしまったことはわかった。途中からは諦めたのか土方は右腕で顔
を隠したまま脱力している。俺は彼に受け入れられたいと思った。許されはしない
だろう、それでも。
土方の中をかき回していた指を引き抜いて代わりに俺自身をあてがってつらぬく。
痛みのせいか彼の腕は逃げ場を探してさまよった。その拍子に何かに当たってばら
ばらと小さなものが畳に落ちる音がした。土方はすがるようにそれを見る。俺はす
らりと伸ばされる彼の腕に見とれる。盗み見た彼はひどく痛々しい顔をしていた。
きゅうきゅうと締め付けてくるそこに俺ばかりが気持ちよかった。
お前は俺を必要としないのだろう。俺がお前の中に押し入ることを望まないだろ
う。俺はこんなにもお前を必要としているのにお前は、一人で立っていたいから縋
る手を必要としていない。それなら俺は一体どうすればいい。結局こんな頭の悪い
方法しか思い浮かばなかった。こんな無理やり奪い取るような方法しか。
ふと土方が俺を見ていることに気づいて目線を上げる。やはり土方は静かに泣い
ていた。痛みではなく悲しみではなく悔しそうに泣くその姿に俺の推測はやっぱり
正しいんじゃないかと思う。ただその姿はぞくぞくするくらい美しかった。
「銀時」
「何」
「今この状況でやめろとは言わねぇ」
そんな涙声で言われても、そもそも無理。
「終わったら、謝れ。ひどいことして悪かったって、謝れ」
俺に、謝れ。念を押すように何度も謝れと彼は繰り返す。そんなことで俺が懲り
るはずもないのに。与えられたひどく弱い罰に俺は許されているような錯覚に陥る。
まさか。だって。そんなはずはないのに。かわいそうだねお前は、こんな俺に好か
れて。たったそれだけで俺を許してはいけない。そんなことをしては俺が図に乗る
だけだ。
じれて前置きもなく動き出すと土方は痛いとうめいた。それでも止まらない。体
はげんきんだから素直に快感を拾った。虚無感と充足感が同時におとずれて訳が分
からなくなった。土方は冷や汗をかいたまま畜生、畜生とくりかえしていた。
ごめん。ごめんね。でも、俺はずっとお前が欲しかったんだ。
畳にちらばったのは飴だった。かわいらしい包装紙に包まれてカラフルなそれは
冷え切った部屋の空気に似つかわしくない。俺が逝く前に土方は意識を失って今も
死んだように眠っている。結局彼は一度も逝くことはなく行為は終わった。こんな
ものはセックスとは言わない。こんなことをしても彼の中に入ることは出来ないこ
ともわかっている。後に残ったのは不毛だけだ。ただただ不毛だった。罪悪感に駆
られてその白い頬をなでても何の反応も返さない。手を伸ばして飴を一つとって口
に含むと、砂糖ではなくなぜか苦い味がした。
060524