たまの休日


 寝起きはどうにも気分が悪い。もともと寝起きはいいほうではないが、いくら休日だとはいえ、起きた瞬間昼近い時間だと気づいた日なんか最悪だ。何か特別用事があるわけではないし、待ち合わせがあるわけでもないがそれだけで何かを損したような気分になる。日々時間に追われる生活をしているだけになおさらだ。まだ布団の中でもぞもぞやっている男には無関係な話で、いつも好きなように振り回される。生憎と明日も休日をもらっている。一ヶ月間働きづめだったから当然のことなのだが、今日もまた振り回されること必至だ。休みだからといって行き先がこいつのところくらいしか思いつかない俺も俺なのだけど。
 歯磨き粉をひねり出して歯ブラシに擦り付ける。俺が買ってきた歯磨き粉も、これで終わりだ。また買い足さなくては。あいつの買ってくる歯磨き粉は子供用の甘ったるい味のするものばかりで、俺は使えたものじゃない。どうせいつも買うものは同じなのだから買っておいて欲しいものだが、いかんせん金がない。らしい。

「なぁにやってんの」

 何やってるもくそもない。歯ぁみがいてんだ見りゃわかんだろ。そう思うが口に物が入ってる状態でしゃべれるわけがない。ブラシを動かしながらちらりと視線をやると、素っ裸(下着だけはつけてる……らしい)に毛布だけを巻きつけて坂田が俺の後ろに突っ立っていた。あいかわらずぼーっとした顔が、寝起きということもあってさらに間抜けな顔になっている。それにつられてさっきまでの苛々もどうでもよくなってしまった。毛布の隙間からちらりと見える白い肌が日に照らされてなんだか卑猥だ。やはりそれだけでは寒いのか、坂田はぶるりと体を震わせた。寒いなら服を着ろ。

「お前、今日休みだって言ってたのに早起きだねぇ」

 急に耳元で声がしてびびった。肩が重いっつぅの。寝起きの癖によくしゃべる。それに今日は妙に素直だ。坂田は少し寂しいのかもしれない。が、面倒なので無視。

「土方にー抱かれたー。お腰がいたぁい」

 そのままもごもごやっていると変な節をつけて俺の名前を呼びながら、ヤッてるときと同じような動きで腰に手を回してくるから思わず吹きそうになってしまって困った。同時にせっかく無視していたのに意識までそちらに向いてしまう。何だこいつは朝から盛ってんのか。といってももう昼ではあるが。

「さみぃんだよ。お前10秒以内に磨き終わんなかったら歯ブラシごと奥歯がたがた言わしてやるからな」

 寒いなら服を着ろ!不穏なことを言いながら腰にまわした手に力を入れてくる。ただ、こいつは嘘つきの癖に人をおちょくるときには有言実行しやがるから、慌てて口をすすいで水を流す。それにうれしくなったのか、さらに腕に力が入って後ろから抱きしめられる形になった。腕が冷たい。全くこれでは俺まで寒い。手始めにこいつに服を着せるか、それとも。面倒だと思いながらもそれがちょっとうれしい俺も俺だ。
 せっかくの休日なのに、俺の疲労も考えずに絡んでくる坂田にうんざりする。今日は一日こいつの相手をしなきゃならないと思うと憂鬱だ。なんでこんな奴好きになったんだろう。それでもそこまで嫌とは思っていない俺がいて、複雑だ。結局同じ穴の狢ってことか。
 すっかり天頂に位置する太陽が哂った気がした。





甘えた銀ちゃん