くわえ煙草


 俺は土方の顔が好きだと思う。
 面食いとかそういう意味じゃなくて、ホラなんかそういう。
 今日も土方は俺の家で寛いでいる。いつもの黒い制服ではなく、お気に入りらしい着流しを着てあわせはいい感じに開いてるしなんだか色っぽい。気だるげにソファに座っているのもなんかいい。ちょっと開いた足の間から下着が見えそうで、見えない。チラリズムって奴だ。思うだけで口にはしないけどね、怒るから。ここで愛が足りないとかはいわない。言わないんだったら!哀しくなるじゃんなんか。正直押し倒したい。けど。
 そういう俺の内心の激しい葛藤なんか完全に無視して土方は新聞を読んでいる。
 もちろん煙草を吸ったまま。
 俺なんか殆どテレビ欄か公募のページしか見ないというのに熱心なことだ。目線がページの右上から左下に動くまでの間に、眉間のしわが増えたり、減ったり、口の端がちょっと上がったり、下がったりと忙しい。あ、今ちょっと目が笑った。
 仏頂面にみえて、実はこういう表情の変化が激しい。それが俺の前だけ、とかだったらなお嬉しいんだけど、残念ながらそうじゃないところにちょっとだけ嫉妬する。まあ多分、俺しか見てない顔もあるんだけどね。夜とかね。だから、やっぱり俺は何も言わない。
何面かはわからないけど、満足するまで読み漁ったページを土方はめくる。その間、煙草はというと灰皿ではなく口へ。ばさりとページをめくってまた読み始める。煙が目に入るのかちょっと顔をしかめた。

 そう、その顔。

 すっげー不細工なんだけどなんかすごい好き。一瞬だけ、端整といわれる、俺もまあそう思うけど、その顔が不細工に歪むその瞬間が好き。なんかやっぱりこいつも人間なんだなー、と思う。や、土方だったら何でも好きだけどね。
 やっぱこれって愛だなと思う。
 土方がせっかくの休日に俺のところに来て、その綺麗な形をした唇に俺の指じゃなくて煙草がくわえられてるのを奪いもせず、たまにしかゆっくり会えないのになぜか新聞をよみあさるこいつを押し倒してぇのを我慢して、土方の顔がぶっさいくに歪む瞬間を見て愛しいと思うなんて。
 そこにいるだけでいいと思うほど俺は聖人君子じゃない。だけど、俺が暇しててもやっぱり一緒にいると楽しいと思うのは、土方の実は豊富な表情をゆっくりと読み取ることができるからだ。
 とはいっても、テレビをつけても楽しい番組なんて見つからない。袋一杯だった飴もあと半分しかない。
 土方が新聞を読み終わるまであと4ページ。
 ちょうど土方の煙草も終わりそうだし、もうちょっとしたら、元気に土方をいじめてみようと思います。





「お前さっきから何見てんの」 咥え煙草好きなのは町です(笑)