サイレンは鳴らなかった その日は特に最悪だった。 朝起きたら始業時間30分前で無遅刻無欠席の俺の超優秀な経歴に危うく泥を塗るところだったし大体その理由ってのも阿呆な幼なじみ二匹の課題の世話を夜中までしていたせいだし(そうだ、そもそも俺が尻ぬぐいしてやる必要なんてみじんもなかったんだよ)ホームルームぎりぎりで駆け込んだ教室でというよりはその入り口で扉を開けたとたんに黒板消しが落ちるという今時どんなくだらない漫画でもやらないような有名すぎてもう古典的としかいいようのない方法で全身真っ白にされるし(しかもそれをやったのは絶対確実に例の幼なじみの片割れ!)それを何やってるんだトシは馬鹿だなぁ!なんて笑われるし(それも例の幼なじみの一人!)直後入ってきた白髪頭で学内禁煙だっつーのに平気で年中くわえ煙草の死んだ魚の目をした担任に後ろ向いて爆笑されるし(爆笑ならまだ許すがなぜ後ろを向く必要がある!)ああもう遅刻しそうで焦ってたからってこんな古典的な罠に引っかかるなんておーぐしくんやっぱり間抜けだねェ、なんて言ってまだ爆笑の発作を押さえられずにいやがるから死ね死ね死にやがれこの腐れクソ教師と思いつつも何も言わずに席についたらまたわけわかんねぇ名前で出席とられるし学ランにチョークがべったりでどうにも気分が悪い中仕方ねぇからチョークの粉を落としてたら一限遅れそうになるし(畜生総悟のヤローぜってーあとでぶっ殺す!)いやそこまでならまだしも六限も清掃も全部終わったときに奇跡的にも怠慢白髪が教室に戻ってきたので怠慢白髪が珍しく出した課題について質問をしているときに例のあの高杉の馬鹿が突然教室に入ってきて怠慢白髪のいる前で「土方ぁ、次の新曲お前の採用だってよ。俺あの曲すげェ好き。ソロとかさ、なんかすっげークール!って感じ」なんて言ったものだから!(だからこいつは馬鹿なんだ、時と場合を考えやがらねぇ!)瞬間頭が真っ白になった俺に向かって当然怠慢白髪は目をランランと輝かせていいネタを見つけたとばかりに口を開いた! 「え、マジ、おーぐしくんってさバンドやってんの、剣道やってるんじゃなかったっけ、つーか音楽好きっぽいからなんとなくそうかと思ってたけどっつーかおーぐしくん指長いよね、うんひょっとしなくてもギター?ベースって顔してないしね、高杉もメンバー?……お前明らかにボーカルだろ、あと絡んでんのは沖田?近藤……は音痴だから外すとして、あーあんま思いつかねぇな、それとも他校の奴?なあ、それよりバンド名教えろよ、なあおい、どうなんだよ」 顔が熱い。もうおしまいだ。こいつにばれたら本格的におしまいだ。いっそ今すぐ日本が消えてしまえばいや世界が消えてしまえばむしろこいつが俺の視界から消えてなくなればすべての歯車はうまく回りだすはずなんだよ!ふつふつと湧き上がる殺意に頭の半分を持っていかれながらも俺のあと半分の頭は必死でなにかこの場から逃れるいい言い訳をフル回転で考えていた。傍目ではただフリーズしているようでも毎秒三千回転で俺の頭はグルグルグルグルと堂々巡りを繰り返す(だめだ!)。 「なに黙ってんの、もしかして恥ずかしいとか?青春ソングとか歌っちゃってんの?恋愛ソングとか歌っちゃってんの?それってさあとから猛烈に恥ずかしくなんだよなぁ。俺も経験あるんだよ、もう俺は忘れたいね、消したい過去だね、最悪だね」 その瞬間、俺の中で溜まっていた今まで必死でせき止めていた何かが一気にプッチーンとはじけてしまった。(高杉によると音がしたらしい) 「ふざけんなこの怠慢白髪!坂田のくせに人がまじめにやってることを鼻で笑うんじゃねぇよこのクソが!テメェらなんかにぜってぇわかんねーことやってんだよこっちはよ!わかられたくもねーよ!テメェと話してるこの一分一秒だって惜しいんだ時間がねぇんだテメェの無駄な話なんざききたくねぇんだよ本当はよ!テメェなんかそこで天パと一緒に腐ってろ!」 ぎんぱっつぁんが最悪な大人です。続き……ません。すみません。 |